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大阪府松原市中央小学校授業研究会(2010)

過日、授業研究会の助言・指導で、中央小学校を訪れました。
以前から中央小へは、何度も足を運んでいます。「ピアルール」というタイトルで「法教育」の授業実践を1年生から6年生まで体系的なカリキュラムに沿って実施しており、今年は11月にこれまでの集大成を提案する研究大会も予定されています。

今回拝見した授業は小学校3年生と6年生を対象にした授業でした。

■小学校3年生:「友だちいっぱい3年生~代表を選ぼう~(公平・権威)」T教諭

T教諭は、中央小学校が「法教育」に取り組みはじめた当初からその牽引役です。今回の授業は、「あそび実行委員」を何人かの候補者から選ぶこと。そして、その選ぶ際に基準となる「ツール」は、「できるか(仕事)」「ふさわしいか(条件)」です。

「できるか(仕事)」は、「あそび実行委員」の仕事は何かを考えることが候補者を選ぶ際に必要になることから、設定されたツールになります。また、「ふさわしいか(条件)」は、その仕事をちゃんと果たすことができる資質は何かを問うこと候補者選定の基準となることから設定されたツールになります。

「できるか(仕事)」のツールで導き出された回答は、「みんなが楽しく遊べるようにする」「声かけができる」「遊びを決める」「遊びのルールを決める」などが提示され、「ふわしいか(条件)」を問うツールでは、「声かけができる人」「話し合いをまとめられる人」「早く来て準備をする人」「ルールを守る人」などが提示されました。

その後で、三人の候補者の調書と短所を比較しながら、誰が「あそび実行委員」にふさわしいのかを考えていきます。

○A(推薦):朝早く来て、いつもコートの準備をしている。泣いている子によく声をかけている。すいせんされたが、あまり自身がない。
○B(立候補):いつもボールを用意するが、自分がボールをもたないと気が済まないところがあり、たまにけんかになる。じょうだんがすきで、友達を楽しませんので人気がある。2年生の時からの親友。
○C(立候補):ルールを守っていない子にはちゃんと声かけができる。自分の考えや意見をしっかり言える。話し合いの時、人の意見を聞かず、自分の意見をまげない時がある。

それぞれの候補について、ツールを用いながら、「ふさわしい人物」について比較・吟味していきます。子どもたちの議論では、「ボールをもたないと気が済まないBは喧嘩を引き起こす原因になり、そもそも『みんな』の目的である遊びができなくなる」といった理由を優先し、Bへの支持は全くなく、AかCの選択になりました。Aについては、「朝早く来てコートの準備をすることができる」それは、ツールとしての「みんなが楽しく遊べるようにする」に合致しているといった意見や、短所として示される「自信がない」についても、「自信がないけど、仕事をすることで自信がつくかもしれないので短所に入れるのは問題である」といった趣旨の意見も出されました。Cについては、短所として示された「人の意見を聞かない」は、「ルールを決めるのに相談して決めないといけないのに、遊びが楽しくならない」といった理由で問題があるといった趣旨の意見が出されました。また、Aの「推薦」については、「みんなが推薦したのだから、人気があるということだ」といった意見が多く出されました。

結果として、子どもたちは、Aを選ぶ子が多数を占め、Cを最終的に選んだのは数人となりました。既に前時間も含め何回か子どもたちにA~Cの選択をさせており、当初Cが多かったのが、だんだんAを選ぶ子が増えていくといった傾向があったようです。

批評会では、「『人の意見をきかない』ということが遊び委員を決める基準の中で重要なもの」といった落としどころに辿り着くような授業展開になっていることへの意見もありました。私からは、「法教育」の特徴である「事実の吟味」をもっと行うべきといった趣旨の意見を述べました。「自信がない」に見られるように、子どもなりの「事実の吟味」があったと思うので、それは了とすべきだと思ったのですが、「人の意見をきかない」のはどのレベルなのかがわからない(相当強情なのか、全く聞かないのか、説得されれば多少は聞くのか)ので、その辺りの「事実の吟味」があっても良かったのではないかとも思いました。ただ学年の発達段階を考えれば、「ないものねだり」なのかもしれません。

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■小学校6年生:「ぴあ・ルール~みんなの意見を大切にして身近なトラブルを解決しよう~ たじひ商店街の自転車問題を解決しよう!」F教諭

F教諭は何度も法教育の研究授業を行っている、ある意味「ベテラン」?の若手の先生です。今回は、目の不自由なカズヤさんがある商店街で下校途中の高校生の自転車にぶつけられ骨折するといった事故が起こり、けがを負ったカズヤさんの安全を守るためにも商店街の自転車の乗り入れを禁止して欲しいと市に相談したといった問題設定の下で、以下のような立場の意見が提示されます。

○「目の不自由なカズヤさん」
→以前にも自転車にぶつけられて骨折をしている。お年寄りも不安に感じている人が多い。安全のためにも商店街内の自転車の乗り入れを禁止して欲しい。
○「たじひ高校の生徒 ショウタさん」
→商店街を自転車で通ると10分でいける。押して歩くと50分かかる。通学の時間帯は、開いている店も少ない。だから危険も少ない。自転車の乗り入れ全面禁止は困る。
○「お米屋の店主 ナツコさん」
→自転車の乗り入れを全面禁止にすると、お客さんが減って困る。私の店は商店街の真ん中の方にあり、荷物も重いので自転車で来られるお客さんが多い。自転車の乗り入れ全面禁止になると売り上げが落ちてしまうのではと心配している」

これら三者の「利益」について、ツールとして「ゴール(目的の明確化)」「ルート(自分の立場を明確にする」」の二つを取り上げてその問題の解決策を考案し、その解決策が望ましい理由を提示するといった授業になります。

今回の授業は、班でその解決策を考えるのですが、それぞれの班に弁護士が入り、解決策について批判したり、意見を述べたりして構築されていきます。

解決策としては、「商店街の真ん中を『自転車道』にして、『歩道』を両端に置く」といった意見が多く出されていました。

批評会では、「子どもは解決策を考えることを優先し、三者の利益は何か、その利益の『優先順位』は何かといった観点をツールに設定するべきではないか、問題の解決策を見つけるためのツールであるべきだ」といった趣旨の意見も出されました。特に「優先順位」はこの問題を解決上ではとても重要であると思いました。また、各班に入った弁護士の役割について、事前に議論しておく必要があったのではないか、といった意見もありました。ただ、弁護士の先生が各班に入るだけで、議論の質が上がっており、間違いなく教育的効果はあったと思います。また、ツールの「ゴール(目的の明確化)」は示されただけで、あまり使われていなかったですねえ。それも残念でした。

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当日は京都市から弁護士、教育委員会関係者、現場教員の方々がお見えになっていました。今年度から始まった「法教育・京都プロジェクト」。その成功のために「視察」にこられたようです。今後、松原の新しい取り組みに注目が集まれば・・・と思っています。
by yasuhirohashimoto | 2010-06-15 10:47 | 研究のこと

福井大学教育学部の社会科教育学担当者が日々感じること、研究のことなどを気の赴くまま記しています。


by yasuhirohashimoto