法教育支援セミナー(2011)。

過日、「法教育支援セミナー」が札幌弁護士会館で行われました。

講演「学校教育における法的リテラシーの育成-新学習指導要領のねらいと実践の具体」(橋本康弘)

主として、今回の学習指導要領改訂の「目玉」である「法に関する学習の充実」の全体像と「対立と合意、効率と公正」「幸福、正義、公正」などの価値概念を習得させるための教材例などを提示し、詳説しました。また、学習指導要領改訂前から「法教育」に熱心に取り組んでいる松原市中央小学校の実践事例についても紹介しました。

ワークショップ「弁護士による法教育の紹介」(吉田悟志弁護士)

札幌弁護士会の「法教育」行事:「法カフェ」の教材VTRを使用して、弁護士が行っている「法教育」の実践事例についてご紹介頂きました。お金の貸し借りを巡る「民事紛争」で樫太郎さんと苅田次郎さんのお互いの「言い分」の食い違いなどから推測して、どちらの「言い分」を受け入れられるのか、などについて参会者が意見発表されていました。

質疑応答「法教育の疑問にお答えします」(札幌西高校 山口晴敬先生、綱森史泰弁護士、橋本康弘、司会:吉川陽行弁護士)

事前に寄せられた質問と当日の参会者による質問に答える「コーナー」。
私がお答えしたのは①「小学校での法教育の取り組みの在り方」②「高等学校での法教育の取り組みの在り方」③「小学校特別活動における実践を法教育として取り上げる場合の留意点」④「答えがない法教育を実践することの難しさについて」⑤「従来の法学習は「公正・正義」などを念頭に置いて教えてこなかったはずだが、どうしてそのように変化したのか」についてです。当日は十分な回答が出来ていない点もあったので、ここで少し補足しておきます(当日発言していない記述もあります)。

①小学校の「法教育」は主として、社会科、そして特別活動に若干導入されたと考えるべき。社会科の実践については、小学校3・4年生と6年生の学習指導要領の内容や内容の取扱いに特に示された。新しい教科書を拝見すると、3・4年生については、「現在有る法律が自分たちの安全などを守るために存在している」といった記述が散見される。「法教育」としては子どもの発達段階に応じて今ある法を相対化して客観的に認識できることが大切で、法の社会的意義を理解させるような記述が挿入されたことは、客観的な認識の第一歩を踏み出した記述だと評価できる。一方で、「法教育」では客体的な法意識を育てることはなるべき避けるべきでもあるので、その配慮も必要になる。「特別活動」との「連携」でそれを実現する方法もあるし、改訂学習指導要領には示されないが、小学校6年生の「政治単元」と結びつけて、法(条例)の提案などの学習を行うことも可能ではないかと考えられる。6年生の学習では「自分たちの地域の願いを実現する政治(議会や首長)」からスタートする。ここに上手く法(条例)の提案を自分たちで実現するといった発想を「法教育」的に入れ込むことも肝要だと思われる。また、6年生の学習は、前述のようなスタートを切るために、立法と行政の話にはつながるが、そこに司法は出にくい傾向があった。新しい教科書を拝見すると、従来的な記述につづいて突然「三権分立の図」が示されるものもある。子どもの思考・学びと上手くつなげることができるような授業づくりの工夫が今後求められる。

②高等学校の「法教育」は主として公民科がその役割を担う。改訂学習指導要領では、それぞれの教科・科目の目標、教科の特質を踏まえた授業づくりが求められる。高校の「政治・経済」は「見方・考え方」を育てることが科目の特徴であるし、「現代社会」は「人間としての在り方・生き方について考えていく」ことがその科目の特徴だろう。高等学校における「法に関する学習の充実」の柱の一つは「法に関する基本的な見方や考え方」に代表される「見方・考え方」を育てることにある。そのためには、法に関する基本的な概念・理論を習得させることが大切になる。「法教育」は「思考型」が「売り」なので、そのような印象が先走ってしまう傾向にあるが、「思考型」だけが「法教育」の特徴ではない。「思考型」の印象があるため、「時間がかかる」「受験指導を考えると十分に対応できない」と思われがちだが、高校では、前述のような趣旨の内容も含まれる。その趣旨を踏まえた授業づくりも今後求められる。

③小学校の特別活動では学級の「ルールづくり」が「法教育」の題材になりうる。法務省の法教育研究会の「ルールづくり」の授業の「ワークシート」に参考にできるものがある。これは「ルールの明確性」や「ルールの目的の合理性、手段の相当性」などを段階的に考察できるワークシートであるので、このようなワークシートに示される法的な視点を考慮した授業づくりが求められる。

④「法教育」は従来の学校教育とは違った性質を持っている。「1+1=2」とあっさり解答できない。「答えがない」ところに思考型「法教育」の特徴がある。その際、思考型「法教育」で重視されるのは、最終的な解答よりも判断する際のプロセスを重視している。評価の難しさなど課題もあるが、本日のワークショップで示された授業などからもわかるように、文脈をどう読み解くかは、作業型・思考型でないと実現することが難しい。思考型「法教育」でしか育てることができない資質もあると考えられることを含んでおく必要がある。

⑤今回の学習指導要領改訂では「習得・活用・探究」の考え方に基づいて科目構造などを考えている。その際、中学校社会公民的分野や高等学校「現代社会」では、それぞれの科目のねらいを踏まえて、最も基本になる(価値)概念は何かを措定して、その(価値)概念をまず習得した後で、「政治社会」「経済社会」「国際社会」などで見出される諸課題などで(価値)概念を活用して思考・判断・表現できるといったことなどを想定した科目構造を採用している。公民的分野の場合は「対立と合意、効率と公正」を「現代社会をとらえる見方や考え方の基礎」としているし、「現代社会」の場合は「社会の在り方を考察する枠組み」として「幸福、正義、公正」を位置付けている。そのような事情で登場したのが「幸福、正義、公正」であるとご理解頂きたい。ただ「法教育」では、これらの価値概念はいずれも「法教育」の「三大原則」に照らし合わせれば、「法教育」で重視される価値概念であるので、「法教育」での授業づくりにおいても、今後考慮に入れる必要がある。

後、「正義」「公正」といっても、「正義」を考えるプロセスで、重要な価値概念があるはずで、その価値概念の重要性を教育する必要があるのでは、といった趣旨のご質問がありました。綱森先生にお答え頂きましたが、この質問には社会科と道徳とをどう切り分けるのかといった視点も含まれているような気がします。今年10月に開催される全国社会科教育学会で野坂佳生先生とご一緒して、以下のようなタイトルで発表を予定しています。

「公正」「正義」の社会科教育論-社会科と道徳の融合可能性-

この発表に上記のご質問の回答は譲りたいと思います。

えらく長々と書きました。昨年度までの癖が抜けず、「官僚答弁」のようになりました。
恐らく後日、綱森先生のブログにもその詳細がアップされると思います。

http://tuna-lre.jimdo.com/

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火曜日から木曜日まで、2泊3日で札幌に滞在。
もちろん、上記した「法教育支援セミナー」のためです。
当日は50名近くの先生方にお集まり頂き盛会でした。
北海道内、遠くからお見えになった先生もおられましたし、
小学校から高校、大学、財団の方まで幅広く参集頂きました。
またH教大のF先生も参会されました。遠方よりありがとうございました。

札幌は気温は高いのですが、じめじめしていないのが良いですね。
夜は秋のような気候になり、肌寒い感じです。

福井に戻ってきて、本当に「夏は札幌、冬は西国へ」といった1年を
送りたい、そう思いました。
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Commented by R.Y. at 2011-08-05 20:57 x
読み応えがありました。
「思考型」のステレオタイプが弁護士の中で先行していくことと、社会・公民の枠を外れた過度の「道徳」化のいずれにも、懸念を持っていました。

官僚的答弁も時として必要ですよ。

札幌の企画の志の高さに感心しました。
わが県でも頑張ります、といいたいところですが、最近、法教育活動の時間がままならないところです。
by yasuhirohashimoto | 2011-08-05 09:47 | 研究のこと | Comments(1)

福井大学教育学部の社会科教育学担当者が日々感じること、研究のことなどを気の赴くまま記しています。


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