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福井大学教育地域科学部附属中学校研究集会(2009)。

一昨日、見出しの会が開催されました。
本年度の社会科研究授業のテーマは二つ。

■「江戸時代の人口が、前半は急増したのに後半は停滞したのはなぜか」
■「裁判員導入で日本の裁判制度は『身近』になるのか」

前者については「江戸時代前半に急増した理由」と「後半に停滞した理由」を思考回路図を元に各班毎に整理したものを、「ジグソー班(学習班とは異なり、各班1名から構成される)」の中で、それぞれの班が考えた理由を提供し、その理由に対する疑問点を他の班から出ている生徒から出させる作業を本時で行いました。

前半急増した理由は「戦国時代と比べて平和で安定した時代になった」「農業の発達など食料生産が増加した」といった「仮説」以外にも、「貨幣経済の浸透が経済活動を活発化させ、生活環境が改善された」といった「仮説」から餓死者数の減少を引き出したり、「新田開発」によるコメの生産量増加と関連させて、餓死者数の減少を引き出したり、それぞれが教科書や資料集等の資料を駆使して思考回路図を作成していました。

後半停滞した理由については「ききん・人口の増加で食料が不足した」「改革で年貢が厳しくなったため農民の生活が苦しくなった(ので子どもを作ろうとしなかった)」「人口の増えすぎで食糧不足になり、また貧農の増加もあり、世の中が混乱したため子どもをつくろうとした人が減った」等や、「非婚化・晩婚化が人口を低下させた」といったことを挙げていた生徒がいました。

後半停滞した理由については、先生が独自に集めてきた資料・教材を読み解いて主張を生徒自身が作り上げます。

前述の課題については、当時の歴史的背景(思想)や政治や経済の構造などを踏まえた上で考察しないと、なかなか上記の問いに対する答えは導き出せそうにありません。子どもにもわかりやすい(「現代的な解釈で回答可能な」)「非婚化・晩婚化による人口減少」にひっぱられる生徒がいたことからもよくわかるかと思います。

やはり先生の方で教材研究した結果、出てきた回答を比較検討する中で、どの回答が一番の理由なのかを考えてみるとか、焦点を絞る工夫が必要だったと思います(いつも本学の研究集会で言うことなのですが)。

今回、担当されたT先生は教材研究の中で、「非婚化・晩婚化」以外にも「都市化」「ききん」「人口急増に対してシステムが追いつかなかった」など想定される回答を見つけ出しておられました。これらを生徒の全面に出してみてはどうでしょうか、ということです。

しかし、こんな難しい問いに対してその回答を粘り強く考えていた本学附属の生徒は大したものだと思いました(「非婚化・晩婚化」の資料は専門書のコピーですよ)。

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後者については、これまで「現代の裁判制度にはどのような問題や課題があるのだろうか」について新聞記事を読みながら、また教科書・資料集を見ながら、その課題を生徒がいくつか挙げています。

「裁判の長期化」「裁判費用の高額化」「えん罪の発生可能性」「裁判官等の多忙か」「量刑の問題(国民の意識・被害者意識との差)等。

これらをダイヤモンドランキングをする中で「重要」な順番をつけていく。
子どもたちは「えん罪の発生可能性」が「重要」と位置づけていました。

次に「模擬裁判員裁判」を行う中で、「現代の裁判制度に関する解決できる課題や問題点」を探り、本時になります。

本時では、模擬裁判員裁判の経験をまず生徒が語ります。

「証言台に立ってみると、緊張感が高まる。証言内容を間違えると偽証罪に問われる。記憶間違いのことをうっかり話してしまいそうだ」「裁判員を経験したが、被告人に感情移入してしまいそうで、公平な判断ができるか、不安だ」「有罪・無罪を判断することの難しさを痛感した」「素人が入ることが重要だと思った」といった回答が出される。

そしてその後で、裁判員制度の良い点・悪い点を考えた後で、裁判員制度の導入で解決できる課題は何かなどについて、子どもたちが整理するといった段階に移ります。

生徒は解決できる課題を「裁判の長期化」だけとする班が多く、たとえば「えん罪の発生可能性」にする班は皆無でした。

最後のN弁護士から「どういった刑事裁判になればよいのか、そもそもそれを考えて欲しい」といったことが提示され、次回の授業につながっていきます。N弁護士の当日の感想は、過日記したブログ「福井法教育研究会(200905)」のコメント欄に示されていますので、ご参照下さい。また、模擬裁判員裁判の際、授業に関わったI弁護士のコメントもありますので、あわせてご覧下さい。

そもそも裁判員制度導入の背景にある考え方・「原則」は「少数の人の目よりも多数の人の目で見る方が公平な裁判を遂行できる」「その多数の目は、専門家よりも素人、様々な経験を持った人たちがその経験を元に判断することが公平な裁判につながる」といったこと。この二つの「原則」があります。

たとえば、この二つの「原則」に照らし、今の裁判制度(裁判員制度)がこの原則を最大限実現できる体制になっているのかを批判することも可能ですが(私の考える、授業構成論で言う、「批判型」で授業を作ることもできます)、その前提として、この二つの「原則」に「納得」してもらう必要がある。

「納得」していれば、「えん罪の発生可能性」を「解決できる課題」とする班もあったのではないでしょうか。「素人が裁判に入ることが重要だ」と発言した生徒も言葉面では説明しても、本当に素人が裁判に入ることの大切さを「納得」してないんだなあと感じました。

批評会では、前者の授業での「子どもの学びの筋」について中心に検討されました。後者の授業については、「結局模擬裁判員裁判で子どもたちが感じたことを繰り返し行っているだけではないか」「身近になるの、『身近』とはどういうことか、を問う方法もあったのではないか」といった趣旨の発言もありました。

私の方からは、前者の授業については前述したことを述べ、後者については、昨年行った大阪府教育センターの研修を引き合いに出し、「模擬裁判員裁判を大人(教員)が経験することで始めて、一つの事実認定に対しても多様な見方を知ることが出来たし、これなら自分たちでもできる。そして、裁判を公平に行うためには、裁判官だけよりも我々大人が入った方が良いことがわかった」とおっしゃっておられた方が多かった。今回の模擬裁判員裁判のシナリオで、前述のようなことを子どもたちが感じることができたのかどうか、それを感じることができれば、裁判員制度導入の二つの原則を「納得」できたかもしれない。模擬裁判員裁判の裁判員用のシナリオも必要なのかもしれない。といった趣旨で発言をしました。

今回も多くのことを学ぶことが出来ました。二人の授業者、T先生とM先生に感謝致します。
そして、M先生の授業作成や実施に関わったN弁護士、I弁護士、G弁護士、ご苦労様でした。

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明日は東京出張。M図書出版でH部長と話をしてきます。出版予定の書籍原稿がほぼ整理できましたので・・・
by yasuhirohashimoto | 2009-06-07 16:01 | 研究のこと

福井大学教育学部の社会科教育学担当者が日々感じること、研究のことなどを気の赴くまま記しています。


by yasuhirohashimoto