修士論文・考③。

シリーズ最終回。



村野界斗,投票行動を基盤とした批判的参加学習の研究-米国と日本の選挙・投票行動を事例にして-

同論文は、社会科教育内容研究に該当する。

同論文では、参政権の学習について、よく行われがちな「投票率が低い、特に若者の投票率が低い、投票は、政治への一票であり、有権者がもつ権利としてはとても大切である、だから、投票に行くべき」といった、「投票に行くこと」が前提となる、「投票は権利ではなく、義務」といった意識を植え付ける授業を批判的に捉えることから始まる。そして、人々が行う投票行動を相対化する授業の必要性を説く。そのため、投票行動を分析する指標を政治学・心理学の両面から採用し、米国の投票行動を事例に投票行動を相対化する授業例を開発する。

授業例の一端を紹介しよう。ここでは、米国の大統領選挙の開票速報を事例に取り上げる。米国の開票速報では、出口調査を詳細に伝える。例えば、「男性・女性」「白人・黒人・ヒスパニック」「年齢」「年収」「宗教」「セクシャルマイノリティか否か」などを基準にして、それぞれどの政党に投票したのかを明らかにしている。そして、「黒人・ヒスパニックは民主党に投票する」「年齢層が高い人が共和党を支持する」といった事実を積み上げて、人々の投票行動を相対化し、なぜそのような現象になるのか、を掴ませる。このような授業は、結果として、アメリカ社会を相対化することにもつながる。

また、同授業では、オバマ大統領の演説を取り上げ、政治家が行う「有権者をひきつける行動」を分析することで、心理学的なアプローチで、政治家がもたらす有権者の「投票行動」への影響も掴ませようとしている。

従来にない新しい社会科教育内容開発を目指したのが同研究であり、一定の成果はあったと思う。しかし、開発した授業が、政治学の研究成果をそのままなぞるものになっている側面も否定できない。その内容を横に拡げようとすればするほど、政治学の研究内容の「拡大」になってしまう(一昨年度の小玉健太論文も同様の批判を受けた)。ただ、同論文の場合、心理学の研究成果を取り入れて人間の行動を分析するといったアプローチも採られている点は、社会科教育学研究としても重要な観点である。人間の行動は心理学とは切り離せないからである(「行動経済学」しかり)。この分野の研究は社会科教育学研究上、開拓されておらず、今後の研究の進展が望まれる。
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by yasuhirohashimoto | 2014-06-01 00:00 | 教育のこと | Comments(0)

福井大学教育学部の社会科教育学担当者が日々感じること、研究のことなどを気の赴くまま記しています。


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